川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                  感謝



    けっこう多めの薬を飲んでいるのに、血圧が下がらない。
    だるくてだるくて仕方がない。
    奴隷のように、足首に大きな鉄の球のついた足かせをはめられているようだ。
    体全体が何かに押さえつけられるように、重くて仕方がない。
    空気ってこんなに重かったかなと、どんよりとした頭で考える。
    悪いことに、背中も痛む。

    弱り目に祟り目とはこのことだ。
    物を落とすのは最近よくあることだが、包丁を落としてしまった。
    幸いにも足の上は免れた。恨めし気に両手を眺める。
    曲がった指先と言うのは、なんとも滑稽だ。
    「流石に包丁はあかんでしょ」
    
    医者に行くと、また薬が増えた。

    別に大した用事のある身ではない。
    江戸時代ならご隠居さんと言われる年齢だ。ご隠居さんの仕事は寝ることだ。
    と、わずかに感じる罪悪感を封じ込め、
    パジャマに着かえて、冬眠をすることにした。
    よくこれだけ眠れるものだと、呆れるくらい眠り続ける。
    
    冬眠して3日目、眠りながらフッとあることに気づいた。
    寝ながらでもできる事。感謝である。
    私には感謝が足りない。
    夫への、息子への、息子の嫁への、弟への、義妹への、甥への、友達への、そして
    ご先祖様への。

    傷を負った動物のように、布団の中で背を丸めながら、また考えた。
    感謝は大事だけれど、なんだか立派過ぎるな。抹香臭いな。いい人には憧れるけれど。
    カーテンの隙間から光が差し込んでいる。
    小春日和だ。太陽を浴びないと勿体ないなあ。

    冬眠から目覚めたら、また突っ張ってみるか。
    昔の友達に言わせると、「不良のめーちゃん」だもの。
    不良も突っ張りもエネルギーがいるから。
    いい人になるには、もっとエネルギーがいるけれど。
    
    今年のテーマは、感謝? 突っ張り? いい人?
    悩むなあ。
    少し気力が湧いてきた。そのうち体調も戻るだろう。


    Sさん、心配していただいて有難うございます。
    今日はパジャマを脱いで、ベランダのカニサボテンの花がら摘みをしました。
    知らない間に満開になっていました。
    5日間の冬眠は終わりました。
    

                2020.1.22