川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                 観察日記


   外出もままならない炎暑の日々、蓮は絶好の遊び相手である。
   朝起きると、まずパジャマのままで二階のベランダに出る。
   幸いに蓮の葉は大きくて、そのうえ繁っているので、道路から誰かに見られる心配はない。

   7月〇日、蓮の花芽が付きました。
   7月〇日、蓮の蕾が膨らみました。
   7月〇日、蓮の花が咲きました。
   7月〇日、……
   私は毎日ノートに書く代わりに、写真に撮っている。

   ふと小学校の夏休みの宿題、「朝顔の観察日記」や「絵日記」を思い出した。
   子供のころから、1つの事が続けられない、コツコツと努力ができない、
   そのうえ飽き性の私には、毎年8月29・30・31日は地獄の3日間だった。
   父と母の3人で手分けをして、なんとか宿題を片付けたものだ。
   そして来年こそは、まじめに宿題をしようと決心するのだった。

   「朝顔の観察日記」や「絵日記」には、モノを丁寧に見ましょう。そして何事もコツコツと
   続けましょう、の意味があったのだと、今になって知るのである。

   
   ピンク色の蕾が開いた。
   白い花弁の縁を薄紅に染めた蓮は、得も言えぬ風情、美しさである。
   「酔妃蓮」というらしい。酔った妃のなまめかしい風情なんて、なんとも素敵だ。

   何気なく、そっと鼻を近づけた。
   一瞬、私は辺りを見渡した。香りの正体を探したのだ。
   だがまぎれもなく、その香りは蓮の華から漂っている。
   
   どんな匂いだと思います?

   微かなミント系……。
   驚きました。蓮には香りがないと思っていたから。
   ちょっと意外、いや、大いに意外。

   試しに白蓮に鼻を近づけると、こちらからは微かに甘い香りが。
   色によって香りが異なるのかなあ。
   まだ当分、蓮から目が離せない。
   
   モノを丁寧にみると、思わぬ発見があるものだ。
   こんな小さな発見が、嬉しい。
   これから先も、どんな知らないことに出会えるのだろうと、ワクワクする。
   
   
                     2018.7.22