川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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              カメレオン



   夫が体調を壊し、代わりに畑仕事をしている。
   豌豆のネットを外し、あとに植える里芋用に畝を耕している。
   明日は牛糞をまぜて、もういちど耕すつもりだ。
   苦にならない。
   昔々の祖母の口癖が蘇る。

   「同じするねんやったら、イヤイヤせんと楽しいにしいや」

   鍬をつかった後の微風が心地いい。
   遅い夕方の農園には、ポツリポツリと人影があるだけだ。
   トマトやキュウリの黄色い花、茄子の紫色の花、ピーマンの白い花。
   実をつける花は健気に美しい。

   けっこう私は畑向きの女なのだ。
   その場その場に適応する、まるでカメレオン。


   学のある祖母ではなかったが、
   「同じするねんやったら、いやいやせんと楽しいにしいや」
   「山より大きな獅子は出えへん」
   と事あるごとに、事の道理もまだ分からぬ幼い私に言って聞かせた。

   祖母が私に何を教えたかったのか、歳を重ねるごとにその意味が分かってくる。
   私の座右の銘である。
   なんとも、年寄りくさい野暮ったい座右の銘である。
   
   
                         2019.5.18