川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                       壁



    「バカの壁」や古くは「ベルリンの壁」などは知っていたが、「75歳の壁」なる言葉は
    知らなかった。
    75歳、つまり後期高齢者になる頃から、急に病気が増えてくるらしい。
    尤もそれらの多くは老化によるもので、生きとし生けるものの宿命と言ってしまえば、
    それまでの事なのだが……。
    だが凡人である我々は、なんとか健康年齢を伸ばしたいと願うのである。

    認知症や骨折しやすくなったりという健康問題の他にも、介護の問題、自身の老後の問題
    などなど、越えなければならない壁は多いという。
    ふと昔はやった野坂昭如さんの「黒の舟歌」を思い出した。
    私の十八番だった唄だ。
        
          男と女の間には深くて暗い河がある……
          エンヤコラ今夜も船を出す ローエンロー ローエンロ― 振り返るなローロー
    
    深くて暗い河を渡るように、75歳の壁も越えねばなるまい。
    だがその壁の高さに気落ちしていたら、今度は「80歳の壁」という言葉にであった。
    どうやら節目節目に壁はあるらしい。
    ところがである、この壁はひどく私向きなのである。努力が要らないのだ。
    乗り越え方はいとも簡単、精神科医によれば、
    「嫌なことはしない。好きなことをする」だそうだ。

    「80歳の壁」なら楽々と越えられそうである。その生き方は私の得意とするところだ。
    なんか勇気が湧いてきたなあ……。
    だがその前に75歳の壁を、よじ登らなければ。


                 2022.7.26