川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
ホーム  エッセー  旅  たわごと    雑感 出版紹介 

                   十薬



   十薬を煎じている。
   家の中には独特の匂いが充満している。
   鼻に突き刺さるような尖ったこの匂い、私は嫌いではない。
   なんだか体の中から悪いものが抜け出ていく気がする。
   ドクダミから十薬に名前が変わるだけで、漢方薬だ。

   庭に十字の白い花を咲かせていたドクダミを刈り取り、きれいに洗い、干す。
   家事はあまりしないくせに、こういう、どうでもいいことをするのが好きだ。
   洗ったり、束にして干したり、細かく刻んだりしている自分に、酔っているのだ。
   そしてドクダミを生かし切っていることにも酔っている。

   私は、生まれる時代を間違えたのかもしれない。
   飛行機に乗れない・車の運転ができない・病院の入り口をくぐると足が震える……、  
   文明の利器にあずかれないのだ。
   江戸時代辺りが、合っているのかもしれない。
   乗り物は駕籠で、病院はj時代劇によく登場する小石川療養所。
   白いタスキを書けた医者、ゴリゴリと薬草をすり潰す音と匂い……なんだか落ち着けそうだ。
   時代に上手く乗り切れない私には頃合いだ。
   
   
   十薬は牛蒡茶とブレンドして飲んでいる。
   そして入浴にも煎じた液を入れる。
   けっこう単純なところのある私は、それだけで高血圧や動脈硬化が少しは改善され、
   スベスベの肌になると思っているのだ。
   信じる者は救われるである。

 
                         2018.6.20