川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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               情熱



    このコロナ禍に この酷暑に この年齢で
    全く新しいことに挑戦したいとおっしゃる方がいる。
    まだお会いもしていないその人に、私は元気を情熱をもらった気がした。

    かくいう私は、この半年、うつらうつらと暮らし、心身ともに寝ぼけ状態だ。

    そんな自分に喝を入れ、久しぶりに図書館へ行った。
    カウンターにはビニールが張られ、居眠りをする老人もいず、図書館は少し様変わりを
    していた。

    目に故障があって、重い内容の物は読めないが、書架の間をゆっくりと歩く。
    長い間足を止めたこともなかった、渡辺淳一のコーナー前で立ち止まった。
    医療を取り扱った初期の頃の作品が好きだった。
    死化粧、光と影、花埋み、雪舞、長崎ロシア遊女館、麻酔、遠き落日……
    書架に並んでいる本のすべてを読破しただろう。
    梅田の書店でのサイン会にも出かけた。
    医者らしいふっくらとした肉付きの優しい手だった。

    気に入ると一途になるところがあって、竹久夢二の画にも傾倒した時期があった。
    大阪や京都で展覧会があると、必ず出かけた。
    立田姫に黒船屋、南都の夏……。
    儚げな風情がたまらなく好きだった。
    中原中也もたまらなく好きだった。やはりその儚さだろうか。
    毎日まいにち、中也の詩を口ずさんでいた。

    私の上に降る雪は真綿のようでありました
    私の上に降る雪は霙(みぞれ)のようでありました
    私の上に降る雪は霰(あられ)のように散りました
    私の上に降る雪は雹(ひょう)であるかと思われた
    私の上に降る雪はひどい吹雪とみえました
    私の上に降る雪はいとしめやかになりました

    しめやかになった雪に安堵し、感謝したものだ。
    

    好きな人に、好きなことに、好きな物に、一途になれる情熱を持っていた私。
    でも過去形は寂しいな。これからのテーマだな。パッション!
    涼しくなったら、「好き」を見つけに出かけてみよう!
    と思っていたら、借りた絵本の中に小さな「好き」を見つけた。

          するめ     (まど・みちお)
    とうとう やじるしになって きいている 
    うみは あちらですかと……

  2020.8.30