川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                女子力



    女子力が低い。それも、グーンと。
    流行には興味がないし、出かける時以外化粧はしないし、ショッピングにも関心がない。
    それに女性同士の会話も、そう得意じゃない。
    大怪我をして以来、美容院にも行ったことがない。20年以上もだ。
    髪が伸びれば、浴室の鏡を見ながら自分で切っている。
    
    あーあ、自己嫌悪。

    そういう私も昔は女子力が高かった。それも、すごーく。
    いちばん高かったのは、小学校の高学年。とにかくお洒落だった。
    少女雑誌で松島トモ子や可愛いモデルが着ている服が欲しくて、気に入る服が見つかるまで、
    近鉄百貨店を皮切りに、高島屋・大丸・そごうを探し回ったものだ。
    誰も着ていない服が着たかった。

    ある時、松島トモ子が履いている、緑色の革靴がどうしても欲しくなった。
    バレーのトウシューズのように、編み上げになっていて、まるで外国の女の子が履くような
    靴だった。
    叔母が買い物に連れて行ってくれた。
    何軒もの百貨店や靴専門店、だがどこにも緑の靴はなかった。
    この店になかったら、もう諦めて帰ろうね、と寄った最後の一件のショウウインドウに、
    編み上げの緑の靴が飾られていた。
    
    私は履くのが勿体なくて、何日も枕もとに飾って寝た。
    だが緑色の革靴が履けたのは、たった1年だった。成長期だったのだ。
    

    「乙女刈り」という髪型が流行ったのも、その頃だ。
    耳の下あたりから、まーるくカーブをつけて切ってゆく髪型は、私を大人っぽくみせる。
    私は学校で一番早く乙女刈りをした。
    私は「お洒落な女の子」で有名だった。
    何人もの先生から、
    「この子は、間違いなく不良になる」と、お墨付きを貰ったのもこの頃だ。

    ああ、私は、女子力などと言う言葉が存在しない昔々に、女子力なるものを使い果たして
    しまったのだ。


    このまま自然に老いていこうと思っていたのに、先日、ある写真を見て、それも、
    人様の目に触れる写真を見て、愕然とした。
    なんと疲れた顔をしていることか……。

    いまからでも遅くないかな、女子力を取り戻すのを。
    まずは何から始めればいいのかな。
    そうだ、まずは物置に眠っている鏡台を引っ張り出してくるか。


                   2019.7.1