川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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             女性専用車両


 
   慌てて飛び乗った車輛が女性専用車両だったりすると、一瞬ギョッとする。
   一種異様な雰囲気にである。
   化粧を施した白い顔・顔・顔。中には素顔もあるが、それらは化粧した顔のなかでは存在が
   消されてしまう。
   四角い箱の中は色とりどりの色彩に溢れ、落ち着かないことこの上ない。
   井原西鶴描くところの「女護ヶ島」もかくありなん、と見たこともない島が浮かび上がる。

   充分に年配の人が、女性車両に乗っているのにも違和感を覚える。
   「もういいでしょ、普通の車両でも。その方が自然だよ。なにもそこまで頑張って女性を
   意識しなくても」
   と、憎まれ口をたたきたくなる。
   痴漢の被害にあいそうな若い女性や、魅力的な女性が乗るのは分かる。
   それも多分に自意識過剰のきらいがあるが……。
   
   なにより、私はプラットホームの、女性専用車両の乗り位置に、若い女性に交じって
   並ぶのが恥ずかしい。
   
  
   そもそも女性専用車両は何のためにあるのだろうか。
   他の国にも存在するのだろうか。
   痴漢の被害から守るために女性を隔離する? なんと安直な対処法だろう。

   女性と男性が適当に混ざり合っている。
   鮮やかな色彩の中に黒っぽい色彩が混じっている。
   それが自然だ。落ち着く光景だ。

   江戸時代、大奥では「お褥すべり」というのがあったそうだ。
   「私ももう年でございますので、床をご一緒するのは失礼いたします」
   「そうか、寂しいのう……」と、将軍は言ったかどうか。

   若さの中にいて自分が浮いて見えたら、女性専用車両すべりの時期だ。
   女性磨きの時期から、人間磨きの時期への移行どき。
   もっとも自分を客観的に見るのは難しいが。
   

                       2018.10.9