川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                    芋煮


    ガラス越しの景色が、真っ只中の秋を通り越して晩秋のそれになった。
    そういえば今年は「錦秋」と出会っていないような……。
    ふと気づいた。
    「錦秋」はこちらから出向いて、初めて出会える景色だと。
    家の中でじっと待っていても、錦秋はやって来ないのだ。

    去年はちょうど今の時期、東北を一周して秋を堪能した。
    だがどこの秋が1番素敵だったかと、思い出してみるが記憶は曖昧だ。
    あんなにあちこちを観光して回ったのに、瞬時に浮かぶのは芋煮の美味しかった事だけだ。


    芋煮と言えば、我が農園も里芋の収穫を終えた。
    今年の春、ちょうど里芋の植え付け時に夫は硬膜下血腫を起こし、緊急入院をした。
    私は見様見真似で里芋を植えた。


    ところが見様見真似の里芋は、コロコロと太り、豊作である。
    自分が植えたのだと思うと妙に愛おしくて、さっそく料理をした。
    もちろん芋煮である。
    舌の記憶を頼りに、牛肉、コンニャク、白ネギ、キノコ、大根、人参と一緒に煮た。
    
    「ひょっとして私、天才と違う?」
    記憶の味そのままの出来上がりだ!
    山形の川原の風景が甦る。
    川原に、バーベキューならぬ芋煮の場所が作られているのだ。
    「芋ももっちりと美味しいし、味付けも最高!」
    自画自賛しながら、夫にも美味しいを強要し、秋を味わった。

    この分だと、手をかえ品をかえして、とうぶん里芋料理が続くに違いない。
    なんたって、私が植えた里芋だもの。
    芋の煮っころがし・田楽・コロッケ・炊き込みご飯・イカと炊いたのん……。

    私の秋の到来である。


                 2019.11.25