川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                    廣瀬神社



    朱い鳥居から参道を見た時、呼ばれたのだと思った。
    以前から気にはなっていたが、今日、突然、行ってみたくなった。
    いや、訂正、お参りしたくなったのだ。

    小雨が降っている。ひっそりと人影はない。
    鳥居を一歩入ると、空気が変わった。このうえなく清浄だ。
    私はマスクをずらし、樹木の匂いのする空気を思いっきり吸った。体中の澱んだ酸素が
    入れ替わる気がする。神霊に包まれている確かな実感。

    奈良県北葛城郡川合町に鎮座する廣瀬神社は水の神様だ。
    納得がいった。私がここに呼ばれた理由が。
    木・火・水・土・金の元素からなる五行説によると、私は水が足りないそうだ。
    筋金入りの雨女なのに……。
    心身の調子が悪い時は水の傍に行くと良い、とその道に人に教わった。
    私は廣瀬神社が水にゆかりの神社だとは知らずに訪れたのだった。

    神社は大和盆地を流れる、大和川・曽我川・飛鳥川・富雄川が合流する地に鎮座している。
    不浄を祓い、豊かな実りをもたらす水を司る神様であり、ひいては衣食住を守護して下さる。
    古来より、朝廷を始め万民を守護する御膳神として信仰されていて、歴史は崇神天皇の頃
    にまで遡る。
    天武天皇13年秋7月 廣瀬ニ幸す、と日本書紀にも記されている古社だ。

    なにより静謐な参道の長さは私を感動させた。2、300メートルはあるだろう。
    小雨のおかげで空気が優しく湿っているのも心地がいい。
    幾種類もの小鳥の声。雨だれの音。
    参道脇には摂社や末社が置かれ、小さな赤い鳥居が緑の中に見え隠れする。
    なんと気持ちの良い参道なんだろう。
    おまけに参道の横には、大和川に続く細い川が流れている。
    霧が晴れるように、沈んでいた気分が晴れてゆく。

    私は霊気を浴びながらゆっくり参道を歩く。堪能しながら。そして、
    祓戸社で心身の汚れを落とすべくお祈りをし、本殿に向かった。
    清澄な拝殿の奥の本殿に、今までになく丁寧にお辞儀をした。

    私の大好きな神社のベスト3に入るだろう。記念に組みひもの腕輪を求めた。



  砂を雨に見立ててかけ合い五穀豊穣を祈る、「砂かけ祭り」は2月11日に行われる。 
   

                   2021・5・5