川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                 ひっぱりだこ飯



    家で駅弁を食べる、はまだ続いている。
    今回は容器が面白いので、明石名物の「ひっぱりだこ飯」を食べることにした。

    ひっぱりだこの弁当は、明石海峡大橋開通を記念して、平成10年に山陽新幹線・西明石駅の
    駅弁として作られたそうだ。
    私が気に入った容器は、実際に蛸漁で使われる蛸壷を模して焼かれている。
    紙の蓋を外すと、うま煮の蛸の足がかやくご飯の上に乗っかっている。
    さすがに柔らかくて美味しい。
    蛸壷様の入れ物はけっこう深く、食べ応えがある。

    明石の蛸は、明石海峡の速い潮流にもまれて育つために、身が引き締まり、なんと足が
    短いそうだ。激しい潮流の抵抗で足が伸びないのだろう。
    そういえば昔、正座をしているから日本人は足が短いのだと言われたものだ。
    それが畳の生活が椅子に代わって、日本人の足はずいぶん長くなった。
    明石の蛸も穏やかな海で暮らせば、きっと足が長くなるに違いない。
    人間も蛸もおなじなんだなあ……。
    人間だからと、あまりいばれないなあ……。
    

    代わり映えのしない台所で、変わった容器の蛸飯を食べながら、しみじみ私は言った。
    「やっぱり駅弁は、電車の中で食べてこそやねえ」
    蛸壷を手に、夫も尤もだとばかりに頷いた。
     

 2021.2.20