川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                  花の寺




    膝を悪くしてから出不精になり、そのうえ病院通いが続き、鬱々とした日が続いている。
    ふと石光寺へ行ってみる気になった。
    中将姫旧跡の寺は、「関西花の寺霊場二十番」である。

    石段を上り門をくぐると、
    「今年度は酷暑が長引き、雨も少なかったため、開花が悪く例年の4分の1です。
    1日当たり7〜8株くらいです。1月中旬で終わりそうです」
    の立て看板があった。

    そうか、寒牡丹の時期か。もうそんな時期か……。
    鬱々としていた私は、そんなことも忘れていたのだ。

    静かな庭園をゆっくりあるく。
    ぽつりぽつりと傘の形をした藁づとが置かれている。
    腰を折り中を覗き込んでは、
    「やっぱり牡丹は花の王やねえ」と、深紅や桃色、黄色の花に話しかける。
    幸いあたりに人影はない。

    中でも、
    一点の染みもない、透けるような幾重もの白い花びらの牡丹には、釘付けになった。
    上品で風格があり、清らかで豪華で可憐で……。なんという品種だろうか。

    鬱々とした気分はいつのまにか消えている。
    この寺に呼ばれたのだと思った。さすが花の霊場である。

        御厨子めく藁の覆ひや寒牡丹        泊月 
        寒牡丹姫の精とも姿とも           野風呂
        風ありとうなづきあふや寒牡丹       青畝



              2024.12.7