川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                   極楽の椅子



    この3年、蓮が咲かない。

    7月、ベランダは浄土と化し、白やピンクの蓮が微かな香りを漂わせたというのに。
    酔妃蓮などという、なんとも素敵な名の蓮だった。
    甕を覗くと極楽が見える気がしたものだ。

    今年の夏も大人が座れるくらいの見事な「蓮の葉」が育った。
    葉に水玉が転がる様など、まるで宝石を越える宝石。
    だが花は一輪もない。

    今年の春先のことだ。
    もう蓮は諦めて、抜いてしまおうかなと、思案した。
    だが、待てよ。もしあの世に善人ばかりが増えて、極楽の蓮が足りなくなったら、
    座るところがなくなるなあ。予備に我が家で極楽の椅子を育てておこう、と決めたのだ。
   
    9月、我が家の甕の蓮は枯れ始めている。

    葉も良いけれど、やっぱり花が見たいなあ。植え替えてみようか……。
    抜くとき勇気と力がいった。
    抵抗するように、枯れた葉がカサカサと小さな音を立てている。

    「まあ、なんと綺麗な」
    泥の中から、白い蓮根が連なって出てきた。
    植え替え時期はいつか知らないが、早速、新しい土と肥料をいれて蓮根を植えよう!
    来年ベランダは極楽浄土になるだろう。いや、なるかもしれない。なれば、いいなあ。
    
    

    ベランダの「鉄線の花の後」が面白いので、くるっと巻いて簡単リースの出来上がり
                  
                        2021.9.10