川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                  ギトギトベタベタ




    焼き肉が大好きだ。
    「しかし、いつきても焼き肉してるなあ……」と、息子に呆れられるくらいだ。
    好きな理由はいろいろとある。
      味は言うまでもないが、肉を用意し野菜を切るだけでいい。 
      ビールとの相性がバツグンである。
      畑で採れ過ぎる夏野菜を一挙に使える。ナス・ピーマン・オクラ・玉ねぎ・
      トマトなどだ。サラダ用のトマトは冷たく冷やしておく。

    クーラーをガンガンつけて部屋を冷やし、換気扇を回し、窓という窓を全開にする。
    ガスの焼き肉器具に火をつけ網に肉を乗せる。
    ロースにバラにハラミにミノにレバー。
    肉の脂がしたたり炎が肉を焦がし、もうもうと煙が立ち込める。
    私は首にタオルを巻き、ビール片手に肉を頬張る。ピーマンは切らずに丸ごと網に置く。
    ぷっくりと美味しいピーマンの丸焼きだ。すべて我が畑の産物だと思えばなお美味しい。

    部屋の中はまるで匂い付きの霧に包まれたようだ。
    「それにしても、この煙、なんとかならないかなあ」
    「あっ、そこのバラ、はよ食べな真っ黒になるで!」
     

    というわけで、今年は調理中の煙を70%消滅させるという、「減煙焼き肉グリル」を
    買った。
    熱源は電気である。
    さっそく試してみた。
    静かである。音がしないのだ。
    網の上にはロースやバラが乗っているのに、ジュッという音や、ボッボッという脂が炎に
    落ちる音がしない。心配になって肉を裏返してみると、確かに焼けている。
    説明書には油ハネ約85%消滅とある。

    粛々と静かな焼き肉は続いた。
    油の細かい粒子が部屋に舞い散ることも、テーブルに飛び散ることもない。
    肉も網の上の野菜たちも大人しく、確かに焼けてはいるのだが、妙に美しい。
    焦げすぎないのだ。
    夫と私は面白くもなんともない様子で、ビールを飲み肉をつまむ。

    はっきり言って、美味しくない。
    やっぱりギトギトベタベタが焼き肉の本分やなあ。
    煙を纏っていない焼き肉は、忘れ物をしたようで美味しくないなあ。
    煙も音もうるさい声も、焼き肉をおいしくしていたんだなあ。
    買ったばかりの焼き肉グリルに文句たらたらの私である。

    たぶん、もう出番はないかも知れない。
    

 2021.8.11