川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                 不織布マスクが怖い



    久しぶりに阿倍野橋に出かける用事が出来た。
    夫は車で送ると言ったが、たまには電車に乗りたくなった。
    百貨店は人出も多いだろうと、私は不織布のマスクをしっかり着けた。

    最寄り駅までは夫に送って貰った。
    車から降り、駅の階段をプラットホーム迄歩く。
    「うん、おかしいな。なんだか息苦しい」 
    周囲に人のいないのを確かめて、マスクを鼻の下までずらした。
    空気が鼻孔に流れ込み、息苦しさは少し和らいだ。私はマスクを元に戻した。

    最近、家に籠ることの多い私は、常は布マスクを利用している。
    出かける時はもっぱら車なので、ここでも布マスクだ。
    その布マスクでさえ、車内では外してしまう。夫には着けることを強要しているのにだ。
    不織布のマスクは、こんなにも息がしにくかっただろうか。
    人様と会う時、電車に乗るとき、友人とお茶をするときは必ず不織布なのに。
    今までは苦しくなかったのに……。

    電車が到着した。乗車したが、やはり息苦しい。 深く息が吸えないのだ。
    その息苦しさは、私にあることを思い出させ、私を気味悪がらせる。
    パニック障害で呼吸困難を起こした時と、苦しさが似ているのだ。
    
    引き返そうかと思ったが、マスク1枚に負けるのも癪なので、各停に乗り換えた。
    苦しくなったら途中下車をして、新鮮な空気を吸えばいい。
    なんとか百貨店にたどり着き、目的の買い物を済ませ、そそくさと帰った。
    もちろん帰りも各停である。

    なんだか寒いなあ。体が痛いほどに冷たい。

    帰る早々、寝込んでしまった。体調も悪かったようだ。
    これからは家にいる時も、不織布マスクを着けて鍛えなければと、ベッドの中で思った。
    「不織布マスク、怖し」である。
    
    
                  2021.8.19