川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                 最新の美術館



    蔵の美術館として長年親しまれていた、藤田美術館を訪ねた。
    令和4年4月にリニューアルオープンしたばかりの、真新しい美術館は、
    国宝9件、重要文化財53件を含む、さまざまな古美術を有している。

    入るなり、「アイフォンですか、ですか、アンドロイドですか?」と、たずねられた。
    ええっ、どっちだったかな? 結局、係員のお世話になる始末だ。
    中の展示物の説明をスマートフォンから受けられるそうだ。
    なんと真新しい美術館は、最新の美術館である。

    美術館の中は薄暗い。それも相当に。
    内部の展示品の撮影は自由だという。
    「へえ、国宝が展示されているのに、撮影OKとは」。驚くことばかりだ。

    今回の私のお目当ては、窯変天目茶碗である。
    中国福建省にあった窯で南宋(1127〜1279)のころに焼かれたもので、現在、この茶碗は
    当美術館と、東京の静嘉堂文庫と大徳寺龍光院の、世界に3点しか存在しない。
    たくさん焼かれただろうに、たったの3点である。

    黒い釉薬のかかった茶碗の内側には宇宙が広がっている気がする。
    光の入り方や見る角度によって、鮮烈な青色は緑や黄、オレンジ、ピンクと表情を変える。
    満天の星空を、こんなに間近で眺められるなんて……。
    私の足は国宝の茶碗の前から離れない。

    美術品を観た後は、館内で抹茶をいただくのも楽しみのひとつだ。
    緑滴る広い庭園を眺めながら、一点物の抹茶茶碗で頂く一服は至福である。
    
    
              

                       2024.6.22