川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
エッセー  旅  たわごと    雑感 出版紹介 



                   脱・断捨離


    断捨離が叫ばれているというのに、ソファを買った。

    ずいぶん昔になるが、部屋を広く使いたいと応接5点セットやカウチを処分した。
    狭い家なのに、寒々しいくらいすっきりとした一部屋が欲しくなったのだ。
    何も置かない空っぽの部屋は、他の部屋がどんなに散らかっていても、その部屋だけは
    贅沢にひっそりとしていた。
    母が生きている頃は茶室になったし、盆や正月には、大きな座卓を囲んで息子夫婦との
    ご飯会の場になった。それが済むと部屋はまたひっそりとした。
   

    ところがである。無駄な部屋などと、贅沢なことを言っておれなくなった。
    夫がよく怪我をするようになり、正座が出来なくなったのだ。
    それにお客さんも正座のできない人が増えた。

    そこで、部屋の隅に小さなソファを置くことにした。
    
    家具屋の広い店内には、座り心地のよさそうなソファーが並んでいる。
    場所を取らないコンパクトなソファーも並んでいる。
    だが、私の目は小さなソファーを素通りして、寝心地の良いソファーばかりを眺めている。
    夫のためのソファーのはずなのに……。
    「これに決めた!」
    「場所、とるで」
    「いいねん、いいねん。これから最期まで一緒にいる家具やから」
    
    どうやら断捨離にも適齢期があるようだ。
    

2023.5.24