川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                   大黒寺(だいこくじ)



    毎月、上ノ太子にある母の墓へお参りに行くたび、気になっていた寺院がある。
    石川沿いの三叉路の突き当りにある「大黒寺」である。
    ずいぶん昔になんどか訪れた事があるが、久し振りに門をくぐった。
    現在は禅宗の寺だが、665年、役行者によって創建された古寺で、福の神大黒発祥の寺
    として信仰を集めている。
    
    「あれっ、こんな感じだったかな? 河内の隠れた古刹という雰囲気だったのに」

    境内は空と直結したように広々と明るく、石造の大きな七福神が、それぞれの名前を書いた
    赤い旗をひらめかせ、ずらりと勢ぞろいである。
    その余りの開放感、明るさに私は一瞬とまどった。
    呪術にたけた役行者や、日本最初の大黒出現の寺という、神秘的なイメージからは程遠い。
    
    昔の雰囲気、けっこう好きだったのになあ……
    とは言え、神仏のご加護やご利益は頂きたく、一体一体の七福神に願い事を唱える。
    「除災来福」の大黒様の前では特に丁寧に頭を下げた。

    「なにごとも すずなりかなう ねがいごと」
    という打ち出の小槌を置いた小堂では、鈴を7回も鳴らしながら小槌の周りを回った。
    鈴の音が境内に響き渡るが、参詣人は私達の他には誰もいない。
    境内の奥の方には、いわれのありそうな大梵鐘がかかっている。
    400年前の清鐘だそうだ。古律黄鐘調で、祇園精舎の鐘と同じで衆生済度の力がある
    音色だとか。
    もちろん、私は力一杯鐘をついたのは言うまでもない。
    
    鈴の次は鐘か忙しいことだと夫が笑っている。
    

                                 羽曳野市大黒499

                     2022,9,28