川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                     雨の七夕



    しかし、よく降るなあ……。せめて今日ぐらい星空になってほしいなあ。
    1年に1度の逢瀬の日なのに。

    七夕の日が大好きだった。
    笹に願い事をいっぱい書いた短冊をつけて、家の軒下に飾ったものだ。
    「100点がとれますように」「お祖母ちゃんが長生きしますように」
    「弟とけんかをしませんように」「○○さんと仲良くなれますように」。
    本当は○○君なのだが、人目を気にして「さん」と書いた。
    そして、次の日には大和川へ笹を流しに行った。

    子供が生まれてからは「ドラえもんが遊びに来てくれますように」だとか、
    「リレーで1番になりますように」だとか、子供の願い事満載の笹飾りになった。
    
    ふと考える。
    もしいま願いが叶う短冊がたった1枚あったとしたら、はたして私は何と書くのだろう。
    うーん、悩ましい。

    願いの叶う短冊はないけれど、我が家には笹が植わっている。
    隣家との境界の生け垣というか、目隠し用である。
     
    笹や竹は古来より神聖なものとされ、殺菌力の強い葉には厄除けの力があると
    信じられている。
    それに、風にそよぐ葉音が神を招くとして、精霊や神様が宿るものと考えられていたそうだ。

    私の部屋からは笹が見える。それもほんの目の前に。
    なんと、私は毎日、神様と対峙しているのか。これはうかうかしていられない。襟を正さ
    なければ。
    この春、夫はずいぶん笹を切ったけれど、神様は座る場所が減って
    不自由しておられないかしら。
    急に庭の一角が神聖な場所に思えた。
    
    雨だけれど色んな事に思いを馳せている、今日は素敵な七夕だ。
    明日からは、きっと笹の葉擦れの音に耳を澄ますだろうな。


2020.7.7