川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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             雨粒



    部屋のガラス戸から雨を眺めている。
    飽きもせず、眺めている。

    葉先にたまった丸い雨粒、枝をツツーッと滑り落ちる雨粒。
    まるでカットグラスか小粒のビーズ。
    なんて綺麗なんだ! 
    業平と後に清和天皇の妃となる高子の恋の話を思いだしながら、
    頬杖を突きながら眺めている。

    さらう様に高子を連れ出した業平に、「あれは、なに?」と草の上の露を指さす高子。
    なんと可憐な深窓の姫ではあるまいか……。

    ポタポタという雨音は聞こえないが、私の耳はかつての音を鮮明に覚えている。
    なんとも心癒される、幸せな時間。
    でもこんなことで幸せを感じる私って、よほど安上がりにできた女だなあ。
 



            2019.10.8