川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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              赤いダイヤ  だったらいいのに



    「もう、今年までやな」、夫が言う。
    「そやね。しかたがないね」、私が答える。

    20年近く、楽しんだ貸農園だった。
    ようやく、人並みのジャガイモや玉ねぎ、里芋、キュウリやナス、ピーマンにゴーヤ、
    オクラ、そしてプチトマトが採れるようになった所である。
    土を触ったことのない夫は、人様に貰っていただけるものを作れるようになったのは、
    つい最近である。

    ところが、
    夫は腰と膝を痛めてしゃがめなくなった。農園からぼろ雑巾のようになって帰ってくる。
    私は右手と膝を故障中で、物がうまくつかめない。

    頑張ったが、残念だがギブアップである。

    毎日、ザル一杯のプチトマトが採れる。
    ジュースやサラダなどにして食べるが、そうそう食べられるものではない。
    プチトマトはつやつやと真っ赤で美しい。大粒の赤いダイヤである。
    今年はプチトマトが大豊作だった。   
    私は赤いダイヤをビニール袋に入れて、知人の家に向かう。
    今日は〇〇さんち、明日は××さんち、というふうに。まるで行脚である。

    「わあ、嬉しい! 採れたてやね」。知人たちはみな優しい。
    
    これも今年限りかと一抹の寂しさがこみあげる。
    きっと夫も寂しいだろうな。


2024.7.11