川上恵(沙羅けい)の芸術村 | ||||||
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赤いダイヤ だったらいいのに 「もう、今年までやな」、夫が言う。 「そやね。しかたがないね」、私が答える。 20年近く、楽しんだ貸農園だった。 ようやく、人並みのジャガイモや玉ねぎ、里芋、キュウリやナス、ピーマンにゴーヤ、 オクラ、そしてプチトマトが採れるようになった所である。 土を触ったことのない夫は、人様に貰っていただけるものを作れるようになったのは、 つい最近である。 ところが、 夫は腰と膝を痛めてしゃがめなくなった。農園からぼろ雑巾のようになって帰ってくる。 私は右手と膝を故障中で、物がうまくつかめない。 頑張ったが、残念だがギブアップである。 毎日、ザル一杯のプチトマトが採れる。 ジュースやサラダなどにして食べるが、そうそう食べられるものではない。 プチトマトはつやつやと真っ赤で美しい。大粒の赤いダイヤである。 今年はプチトマトが大豊作だった。 私は赤いダイヤをビニール袋に入れて、知人の家に向かう。 今日は〇〇さんち、明日は××さんち、というふうに。まるで行脚である。 「わあ、嬉しい! 採れたてやね」。知人たちはみな優しい。 これも今年限りかと一抹の寂しさがこみあげる。 きっと夫も寂しいだろうな。
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