川上恵(沙羅けい)の芸術村
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            紫陽花の家



    不思議だ。今年はなぜか妙に紫陽花に惹かれる。
    去年はグラジオラスや真っ赤なカンナが、あんなに好きだったのに。
 
    住み始めた頃の我が家は、純和風の家だった。
    狭い家屋をカイヅカイブキがぐるりと取り囲み、門から玄関まで、とは言ってもたかだか
    10歩ほどのものだが、紫陽花が咲いていた。
    またの名を七変化と呼ぶように、花の色を濃く薄く変えるらしいのに、我が家のは寂しい薄い
    ブルー一色だった。
    必死に抵抗するかのように、かたくななまでにその色を変えない。

    雨に濡れた大きなブルーの塊が、庭を狭くしていた。
    雨を一杯吸っても、紫陽花の色は儚いほどの薄いブルー。
    雨空と同じ色をした陰気な庭に、ぼわあと霞んだように咲いていた。
    私は濃い紫色の紫陽花が欲しかった。
    薄いブルーは病弱な私と同じようで、嫌だった。

    年月って不思議だ。
    あんなに邪険に思った花なのに、今年は愛おしい。
    だが、紫陽花が植わっていた庭は、今はガレージになって、あっけからんと明るい。


    花言葉も時代に合あわせ、忖度をするらしい。
    「移り気」「浮気」「無常」など、あまり良い印象のなかった紫陽花だが、最近では、
    青は「辛抱づよい愛情」、ピンク「元気な女性」、白は「寛容」だと、イメージが一変した。
    母の日には、ピンクの紫陽花が好んで贈られるそうだ。
    ならば、
    青い紫陽花の家は、辛抱づよい愛情に包まれた家だったのか……。
    最近の私の愛は、どんなだろう。

    人の気持ちって、変わるもんだなあと、変なところで納得するのである。


                   2019.6.25