川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                    五重塔


 
    久しぶりに大聖勝軍寺にたちよった。
    巨樹が大好き人間の私にとって、聖徳太子をかくまったと伝説の椋の大木も見たかった。
    だが、
    残念ながら椋はほとんど落葉し、裸木に近い状態だ。
    その分、枝に止まった何羽もの小鳥がくっきりと見える。

    大聖勝軍寺はまたの名を、下の太子と呼ばれる。
    母が眠る叡福寺が上の太子、そして上の太子と下の太子の中ほどに中の太子・野中寺がある。
    境内を歩きながら、なんだが親戚に来たような、不思議な親しみに包まれる。

    本堂の裏手に硬貨の五重塔と高野山の大塔が奉納されている。
    ガラスケースに顔をくっつける。
    「えっ、うそっ!!」
    なんと本物の古銭で作られているのだ。
    今までも見ていたはずなのに、5円玉の塔だと思い込んでいたのだ。

    なになに、寛永通宝、乾隆通宝、天保通宝……、みんな本物だ!
    古銭奉納塔というらしい。
    因みに奉納されている法隆寺の五重塔には、
    日本の古銭が約3720枚、中国のが約360枚も使われているそうだ。
    ふと、「なんでも鑑定団」が頭をよぎった。
    
    おみくじをを引き、お不動さんに水をかけ、椋の木の陰にかくれた太子の石像をながめ……
    私は親戚の家にいるような不思議な安らぎを楽しんだ。
    
    母の命日の頃は、椋がきっと新緑で清々しいだろう。



                 2025.11.28