川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
ホーム  エッセー  旅  たわごと    雑感 出版紹介 



                  タマ電車


     断然、犬派である。しかし電車は好きだ。
     そこで、今さらという気がしないでもないが、タマ電車乗ることにした。
     JR和歌山駅から和歌山電鐵の貴志川線に乗る。私たちが乗ったのは「おもちゃ電車」という
     赤い車体の可愛い電車だ。他に「いちご電車」や「たま電車」があるらしい。

     さすが和歌山県は木の国、車内はつり革の持ち手や本棚などの小物に至るまで、木目も美し
     く、木の香りに包まれている気がする。
     列車の床は、靴を履いたまま乗るのがはばかられそうな、モザイク模様。
     
     2両のローカル線は、ひなびた景色の中をゴトゴト走る。
     蜜柑の木があちこちに見える。鈴なりの実だ。
     「和歌山へ来たんやねえ」、友人は感慨深そうな声を出した。

     和歌山駅から14番目が終着駅の「貴志駅」である。駅舎は猫の顔をイメージしたものだ。
     猫好きの友人は、早速、ガラスケースの中で執務中のたま駅長に会いに行く。
     「可哀そうに、運動不足やねえ。こんなに太って」
     と、ガラス越しに話した。
     駅長は、ちらりと一瞥をするや、おしりを向けてしまった。
     こんなに太っての声が聞こえたのか、部下の駅員さんがやってきて、
     「二代目駅長は、ペルシャ系の猫ですから」と、しっかりフォローした。

     駅長は後ろ向きになったまま、こちらを見ようともしない。
     「ちょっとは愛想をしたらどうやのん。せっかく遠くから来たんやから」
     やはり、犬派の私は思うのである。