川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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                     神様お目こぼしを


   以前このページで、「奇病にかかった」や、「流行の先端が好き」などと,病気を茶化して
   書いたことがある。

   まだ市民権を得ていない頃の自律神経失調症。
   景色がぐにゃりと歪んで、四六時中、船酔い状態だった。
   顎が骸骨のようにガチャガチャギシギシと嫌な音をたてる、顎関節症。
   ひどい時は口が開かず、おちょぼ口での食事は美味しくなかった。
   息の仕方を忘れている、無呼吸症候群。
   酸素不足の金魚が水面で口をパクパクさせているのをみて、「ごめんごめん、空気が足りないん
   やね。苦しかったね」
   と、慌てて甕の水を入れかえたものだ。

   今でこそ笑い話だが、当時はどれもこれも大変だった。辛く苦しかった。
   まだ、それらの病気があまり騒がれていない頃の事である。

   だがいつの間にか、それらは姿を消した。
   過ぎてみれば、いまではその苦しさは霧のかなただ。
   時折、随分おひさしぶりね、お元気?と、自律神経失調症が顔をみせる以外は。
   
   ところがである。
   最近、黒内障なる聞き慣れない症状に襲われた。
   片目が急に黄昏時のように暗くなってしまったのだ。
   「なに? これ?。お父さん助けて!」
   パニック状態の私は、久しぶりに夫の腕を鷲づかみにした。
   夫はなんとも不思議な顔で、そんな私を見た。
   片目だけの黄昏時は、私を不安のどん底に突き落とす。


   一過性黒内障というらしい。原因は脳への血流に問題があるそうだ。
   白内障・黄斑変性症・緑内障・黒内障。白・黄・緑・黒。
   「目の病名は色に関係しているなあ。色が濃くなるほど重症ということか」
   変なところで発見をした気になった。
   だがすぐに、
   「しかし病名に黒はあかんでしょ、縁起が悪い」と、自室の壁に向かって突っ込みを入れた。
   
   ひょっとしてこの「黒内障」も、そのうち流行するのだろうか。
   なんといっても、私は病気の先取りの名人だから。
   だが今回ばかりは、流行の先端が好きなどとは言っていられない。
   面倒な病気の可能性を抱えているのだからと、少し殊勝な気持ちになっている。

   神様、これからは病気を茶化しませんので、どうぞお目こぼしのほどを。


                                2018.4.21