川上恵(沙羅けい)の芸術村
 話のポケット
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    犬の話

    物心がついた時からいつも犬がそばにいた。
    シェパード、ポインター、ブルドッグ。雑種はいなかった。
    いちびりで、珍しい物好きの父の趣味だ。当時、カタカナの犬は少なかった。
    そんな犬を飼っていることに、子供じみた優越感があったのかもしれない。

    最初はシェパードだった。
    シェパードは大食漢で、母は食費がかさむと文句を言った。
    それが分かったからでもないだろうが、3日ほどするとシェパードは脱走した。
    慌てて父が探しに行くと元の飼い主の家に帰っていた。
    なんど連れ帰しても、やはり元の飼い主の元に帰った。
    テレビのアメリカ映画で、シェパードが活躍していたころである。

    次はポインターだった。
    ポインターは寒がりだった。母は弟の綿入れの甚平をポインターに着せた。
    精悍な体に甚平は似合わない。賢い犬なのに、なんだか間抜けに見える。
    「うちでは無理やなあ」、お洒落な父は、黒いポインターを実家に連れていった。
    実家の庭は広く、誰に気兼ねなく、甚平姿のポインターは嬉々として庭を走りまわった
    そうだ。

    次はブルドッグだった。
    父は大型犬をあきらめたようだ。
    ブルドッグはつねに鼻水や涎を流し、クシュンとした顔でハアハアと熱い息を吹きかける。
    散歩もあまり好きでないらしく、いつも縁側でねそべっている。
    ブルドッグはどうして家からいなくなったのか、よく覚えていない。
    私や弟が、あまり可愛がらなかったせいだろうか。
    3匹で、父のカタカナの犬熱は冷めたようだ。

    いらい、私の傍にいる犬は、シロやクロ、チビにコロなどなど、雑種ばかりである。