川上恵(沙羅けい)の芸術村 | |||
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エッセー | 旅 | たわごと | 出版紹介 |
続・親指 整骨院の先生が、私の親指に包帯を巻くとき、 「みっじかい指ですね」と、絶滅寸前の動物を見るような目で、指をつまみあげ、 しげしげとながめた。 『先生が、そんなこと言うたらあかんやろ』 内心ツッコミを入れながらも、正直な先生だと笑うしかない。本当のことなんだから。 なるほど短い指のせいで、包帯の幅が半分に折れている。 親指の不調は想像以上に不便だ。モノをよく落とす。 箱から線香や爪楊枝を取り出そうして、バラ撒いてしまうときの、後始末の大変さ。 線香を元のように揃え、箱に入れようとするのだが、指の動きがぎこちないせいで、 緑色の線香は音も立てず、はらはらと折れてしまう。 爪楊枝にいたっては、尖った方と頭の丸い方をいちいち揃える羽目になる。 手間のかかる事このうえない。 ただ線香の場合、指先に微かに香りが残るのは、ちょっと嬉しい。 親指は大切だ。 もちろん他の指も大切ではあるが、親指の大切さに比べたら……。 そういえば「おはなしゆびさん」っていう、童謡があったなあ。 たしか親指はお父さんだった。お母さんは人さし指。 なるほどこの2本は使用頻度が高い。 そうだ! お父さんは一番偉いんだった。 と、長い間忘れていたことを思い出した。 この親指の故障は、それを思い出させるための神のご意思なのかなあ……。 神様も、なかなかな悪戯をされるなあ。それともお灸だろうか。 そうだ、まだある。胸の奥がチクリとすることが。 亡くなった母や祖母に、「何をするにもノロイなあ」「信じられへんとこで失敗するなあ」 と、偉そうに言っていた私。 仕方がなかったんだ、当たり前だったんだ、歳をとるってそういうことだったんだ。 色んなことを考えさせる、狭窄製腱鞘炎・弾発指である。 |