川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                    うちの椿



     ふつう椿は落ちてさえ、その形は美しいというのに、わがやの椿ははっきり言って、汚い。
     気の毒だが、品というものが全くない。

     ポトリという風情ではなく、花弁をだらしなく開けきり、ベタリ、あるいはべシャリという
     感じで、根元に落ちている。もう精も根も尽きましたと言わんばかりだ。
     花冠の直径は10センチほどもある。
     赤い斑入りの桃色が、毎日10個以上も狭い庭に、ベタリ、べシャリなのである。

     「もうちょっと、椿らしいに落ちられへんの。椿は武士(もののふ)やよ」

     それは盛りを過ぎた太り気味の女性が、手足をおもいっきり広げて、惰眠をむさぼっている
     姿に似ている。
     これって、まるで私やん!
     動物は飼い主に似るっていうけれど、植物もそうなのかなあ……。

     恥らうような桃色の蕾からは、想像できないだらしなさだ。
     落ちてさえその姿が、凛と美しくてこその椿である。
     満開の時も、これみよがしの咲き方で、なにより密やかさを好む私としては、見ていて
     辛いものがある。
     しかし四海波という名前に惹かれて買ったのは私なので、文句も言えない。

     だが、今日、植物図鑑で調べてみたら、どうも四海波という種類ではなさそうだ。
     細い枝に名札をつけていたのに、あれは間違い?
     一体、貴女は誰なの?

     そう文句をいいつつも、殺風景な庭に、彩を添えてくれているのには感謝しているの。 
     ほんとうに。