川上恵(沙羅けい)の芸術村 | |||||||||
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上海がえりのリル 上海がえりーのリール リール どこにいるのかリール だれかリールをしらーないか 好きな懐メロはと聞かれたら、迷わず答える「上海がえりのリル」だと。 父がよく口ずさんでいた歌だ。 上海は私が想像した以上に大都会だった。 大阪びいきの私にも、上海の夜景はまばゆかった。 風雅なレンガ造りの建物のどこかから、微かに流れるジャズの音色。 上海外灘(バンド)にはジャズがよく似合う。 それでも私は上海がえりのリルを小声で歌う。 上海で歌うリルの歌は私を感傷的にする。 上海には色々な顔があった。 華やかな都会の顔、油でギトギトに汚れた顔、我が物顔の車の列…… だが人々は一様に前だけを見、体中からエネルギをがあふれさせている。 上海は私には元気すぎる街。 私はリルを探した。 昼間歩いた、うらぶれた路地裏になど、リルはいやしない。 リルは髪をくるくるとカールさせ、唇を真っ赤にそめ、胸の大きく開いた真紅のドレスを 着て、まい夜まい夜、男達にかこまれて酒場で酒を飲んでいたのだ。 毅然と酔いながら……。 そんなリルであってほしいと私は願った。 父親が好きだった歌の主人公は、女々しい女なのは嫌だった。 私はリルを探しながら、在りし日の父親を探していた。
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