川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                  シンデレラ

     
     赤ずきんちゃんの次は、これもおなじみのシンデレラ。

     シンデレラほど嫌な女はいないと、私は思うのです。
     私は2つ上の義理の姉です。
     いまどき流行らないあのブリッコ。いつも半泣きのような顔をして。
     もっともそれが自分が一番綺麗に見えることを知っているのです。
     そして顔に灰なぞつけて、薄汚れた格好で独楽ねずみのように、
     これ見よがしに働くのです。

     いくら私の母が、
     「もうちょっと小奇麗な格好をしたらどうなんだい。年頃の娘がそれじゃ男達が
     見向きもしないよ。それに手伝の女もいるんだし、何もお前がそんなに働く事は
     ないんだよ」
     と口を酸っぱくして言っても聞く耳を持たないのです。

     一日に何度も玄関の扉を磨き、外の窓ガラスを拭き、ポーチのタイルを洗うのです。
     そう人目のつく所ばかり……
     悲劇のヒロインに自分を仕立てて、それに酔っているのです。
     シンデレラにとって継子という立場は人の同情をひく、この上なくおいしいものでした。
     世間では継子苛めだと母の陰口をきいています。まったく被害者は母です。

     舞踏会の日の事も、「私などはとんでもない」と言いながら、
     ちゃっかり洋服屋や髪結い、あげくは馬車の御者などに渡りをつけ、お城に出向くのです。
     それも脱げ易いガラスの靴の演出までして。本当に腹黒い女です。

     シンデレラは自分の美しさを誰よりも知っていました。
     けれどもそんな事は少しも気づかない振りをして、
     「私なんか……」と俯き、恥ずかしそうに言うのです。
     男たちはそれを聞いては、なんと優しく謙虚な女性だと感心するのでした。
     必要以上の謙遜さは、自慢の裏返しだという事を、男たちは気づいていないのです。
     男とは、なんと単純で幼いのでしょう。

     シンデレラのような薄っぺらい女に惹かれる男は、あまり恋愛経験がないのです。
     ですから王子様とシンデレラが結婚したときも、ちっとも羨ましくなかったのです。
     決して負け惜しみじゃなく。
     あんな女に惹かれる男の、なんと女を見る目のないことと、私たちは酒の肴に
     笑ったものです。
     私たちは誰も王子なぞ相手にしません。あんな面白みのない男なんか。
     どんな女を選ぶかで男の過去や生き様、美意識が分かります。反対のこともいえますが。

     結婚して5年目、シンデレラは離婚しました。予測のついたことです。
     当たり前です、いくら初心な王子でもシンデレラの裏の顔が見えたのでしょう。
     こういってはなんですが、一見、意地悪で通っていた私は、今とっても幸せに暮らして
     います。
     旦那は腕のいい鍛冶屋です。
     子供? 四人いるんです。 
     子供に手がかかり、お洒落なんてここ何年もしていませんが、それでも幸せです。
     

     シンデレラのその後ですか? それは私たち家族にも分からないのです。
     母などはとっても心配をしているのですが……
     そういう私も、ふっと気になるときがあるのです。