川上恵(沙羅けい)の芸術村
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                     河童



     小さな家庭菜園なのに、毎日6、7本のキュウリがとれる。
     とれたてのキュウリは、先にしなびた黄色の花がついていて、イボイボがとんがっている。
     当初は嬉しくて、キュウリの酢の物、漬物、ピクルスなどと、せっせと料理をした。
     瑞々しくて爽やかな香りが暑さを一瞬忘れさせる。

     だが毎日毎日のことである。
     モロキュウ、中華風のラー油入りの漬物、炒め物と、手を変えてみたが、
     2本を食べるのが精一杯である。
     いくら好きな、生姜と胡麻をかけたキュウリの漬物も、箸が進まなくなった。
     山椒入りの塩昆布が食べたくなってくる。

     近所の知人達に貰ってもらっつたりしたが、そうそうも気の毒だ。
     もっといいものならいざ知らず、新鮮だとはいえ、たかがキュウリである。
     
     ふたり暮らしに6、7本は持て余すというのに、それでも律儀にキュウリは毎日、
     同じ様な数だけ実をつける。
     冷蔵庫の野菜入れは、始末に困ったキュウリで占領されている。
     畑での労力を考えると捨てるに忍びなく、困った私は、乾燥キュウリや、冷凍なども
     試みた。
     まだ食べてはいないが、そう美味しくもなさそうだ。
     
     そういえば去年は鈴虫を飼った。
     毎日、鈴虫はキュウリを食べ、美しい声で鳴いた。
     だが、残念ながら今年は孵化しなかった。
     私の体調が悪く、上手く越冬させる事ができなかったのだ。

     鈴虫も駄目か……。
     何でもありの時代だもの、ひょっとして、とネットで検索した。
     ありました! 「キュウリのお風呂」。
     お湯にぶつ切りにしたキュウリを浮かべるだけという簡単さ。
     その夜、私は湯船にキュウリを浮かべた。
     柚やハーブのように芳香とまではいえないが、仄かに爽やかな香りが湯気に漂っている。

     私は河童の気分になった。
     河童も悪くないなあ……、美肌効果かあるそうで、一挙両得である。