川上恵(沙羅けい)の芸術村
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梯子



     新年おめでとうございます。
     

     昨年の暮に気落ちする事があって、それを振り払うべく、今年は1日から神さん参りの梯子
     に勢を出した。
     元日は母が眠る叡福寺に初詣。
     鐘つき堂が傍にあって、賑やかなこと大好き人間の母にとっては、大晦日から三が日は、
     鐘の音と共に、ザワザワとした人の気配で寂しくはないだろう。
     聖徳太子のご廟とは隣組の近さである。
     毎日、太子に手向けられる線香の煙のお裾分けにあずかっているに違いない。
     太子の説法も、毎日聞いているのかしら。
     ありがたい話やから、居眠りしたらあかんよ。
     
     2日目はその名前に惹かれて「夜都技神社」にお参りをする。
     なんと神秘的な名称だろう。古典的でありながらエキゾチック。
     夜都技神社は山辺の道沿いにある、ひっそりとした神社だ。ひっそりしすぎるくらいに。
     狛犬も茅葺の屋根も風雨にさらされ、苔むしている。
     境内にいるのは私1人っきり。
     想像癖のある私は空想の世界へ迷い込む。

     やんごとなき姫君が恋に悩み、やがて精神が傷つき、人里はなれた山中に幽閉されてしまう。
     そんな姫君に夜通し付き添った神……。
     うりざね顔の白い顔がぼんやりと目の前に浮かびあがる。
     
     背後で、バサッと静寂を裂くような音がした。鴉だった。
     陰鬱な境内に真っ黒な鴉。
     慌てて私はその場を立去った。
     気がつけば神様に願い事をするのを忘れていた。

     3日目は従姉妹と伏見稲荷へ。
     夜都技神社とは対照的に人・人・人……。
     おまけに雪が降り出した。私は雨女である。従姉妹と連れ立ってどこかへ行こうものなら必ず
     雨が降る。
     「まあ、雨よりましやね」、そう慰めあったが、雨と変わらないほどの冷たい雪だった。
     商売繁盛のお稲荷さんに何を願っていいのか分らず、ここでも手を合わせただけだった。
     それでも、清浄な雪に、少しは穢れが清められただろうか。
     
     欲どうしく神さん参りの梯子をしたせいで、神罰が下ったのか、翌日から足が痛くなって、
     引きこもり状態である。体調も悪い。
     夜都技神社の祭神である、春日大社の四神の怒りに触れたのかもしれない。
     あるいは「隣組」などと、タメ口をきいたせいだろうか。

     何事もほどほどがよいようだ。